壊滅地帯骨の欠けらの雪が降る
津波避難老いの空咳夜を曳く
被災者が被災者守る泥の照り
瓦礫やヘドロや眠りに胡坐かく余震
被災の尾伸び聴診器に詰まる凝り
屋内退避ひもじい猫が寄ってくる
マスクの子らもぐもぐ避難肩揉み隊
原発廃炉へ被ばくは下請作業員
ランドセル髭の語濡らす紙棺
「安全神話」春寒闇の底知れず
卒業証書明日へ拭き取る津波の泥
人を斬る剣は持たぬ初神楽
菜の花マラソン知覧から来る少年兵
ハンセン監房跡の炎天拳石
師を負えば背の男根が喋る夏
紅葉は卑弥呼のはにかみ渓谷から音
稲刈りて石橋踏みて兵にされ
深爪の痛さ開戦日の寒さ
白泉忌戦死の兄の講義録
雪しまく反核ポスターに足す画鋲
石蹴って蝌蚪を散らした日の故郷
かげろうや振り返るたび村揺れる
限りある時間が見える花あかり
にんげんを忘れてさくらの中にいる
蝉しぐれだあれもいない村になる
片減りの靴底を灼く爆心地
一本は蝉の啼かない被爆の樹
米を磨ぐ母の背中の広島燃ゆ
黙祷のこぶしの中まで蝉しぐれ
日出生台砲こだまして稲架の列
砲火つゞく牧のすゝきに牛固まり
霧に消ゆ戦車の轍(わだち)真直ぐに
砲火止むすゝきの間に牛の耳
兵ら去り日出生台地に時雨くる
こおろぎと遠い時間の中に住む
秋刀魚焼く人は寂しい距離を持ち
落葉掃く手は晩年につきあたる
それぞれの時間を濡らす霧の村
子ら去りて枯野に残る父の椅子
まだ残る夕日の中の葱を抜く
◇佳作一位
師走風片手で掬いポケットに
妻の声残る初湯の満々と
快眠の眼底(まなぞこ)に澄む冬木立
一茶忌や泣く子が跨ぐ水溜まり
雪合戦僕には影の無いいくさ
砂像展足音沈む雪砂丘
傷痕の臍が呼び来る梅雨の冷え
吹雪く夜や過去も未来も消灯す
痰を切る力を残し冬を生く
春の山背負っても良し凛と老ゆ
病み返すつんつん伸びる松の花
掌に余る錠剤一飲み水温む
空蝉や命の匂い地に残し
共に老い共に黙して原爆忌
臥す我や百日紅を観て飽かず
黙々と妻と夕餉の大夕焼け
点滴のしずくは無音夏至明かり
八月の水飲む椅子が一つ増ゆ
鵙の声無人駅より吹き抜ける
妻と踏む落ち葉の声の有るが中
◇佳作二位
白さるすべり鞄に詰める爆心地
中肉中背八・一五の義手義足
美しき弧に黒点のごとく基地
ひばりの忌鉛筆で描く憲法と
生真面目な俺の靴底多喜二の忌
侵略史の冒頭に立つ白木槿
八十八夜人類はまだ幼年期
無邪気な道の向こう原子炉熔ける
赤子に核浴びせ潮騒もとの春
シャボン玉のように赤子に計測器
肩たたく子供ボランティア少し春
朧夜や原発にもぐる派遣たち
知性とは私心無きこと星凍てる
十年間昇給の無し風光る
青き踏む息子と始む塗装工
心臓と脳の引き合う二月かな
汗だくの老後赤い靴に消費税
九月一日フライパンの焦げ擦する
地底のメロディ三十三名へ星月夜
夏の果て父は土星の輪で遊ぶ
◇佳作三位
羊水の途中は八十八夜かな
砂針にいつもの速さ鳥帰る
日本語がひとつ桜の木に登り
陽炎の亡母は上手に逃げていく
多喜二忌の汽車の空席北へ北へ
梟や寝返るための骨が鳴る
鳥渡る行く先はみな地図の中
祖の血のまざまざと沸くいぼむしり
地を這うような母を日傘に入れてゆく
水呑んで影の膨らむ羽抜鶏
父いればその父もいる秋の山
母の郷深々行けばとろろ飯
枯すすき白い手紙となってくる
枯蓮のどの一本も骨のいろ
台風の目の中におり神父の傘
枯葦に刺されておりし生家かな
北の冬午前零時が時効です
人間をにんげんにして冬仕度
凍蝶の夜に罅入る音のする
寒林を手のひらほどの馬がゆく
◇佳作四位
金環蝕と子規の写真の明治かな
豆の花祖母の輪郭ぼんやりと
まんさく咲いて親父小さく臨終す
蚊柱太し八ッ場の衆の石仏堂
うつくしく壊れていたり吾妻渓谷
あいまいに笑う外なし八ッ場の衆
殺処分される種牛草青し
木槿咲く体内時計を正すなり
綿棒の首の折れたる終戦忌
ピカドンが熔かした象の貯金箱
戦争や出口入口無言館
首から上のキリンの影や石蕗の花
秋の蚊の増税論は背後から
十二月八日回覧板を飛ばされた
農事日記焚火にくべて老の葬
天気図の指紋のように寒波来る
ボス猿の半身浴や春どなり
そらに住むひとと遭ってる朝寝かな
亀鳴くや日本銀行地下金庫
ワン切りの非通知電話多喜二の忌
◇選外佳作
職辞して手のひら乾く五月かな
虹わたることもあろうと靴買って
少年の顔して歩く天高し
吊し鮭ところどころに武士の貌
冬隣余生を臍で考える
秋耕の肩にかゝりし日の重み
自己流のくしゃみ響かせ一人なり
◇選外佳作
土偶目の子ら八月の広島は
誰来しと思えば雪の落ちる音
多喜二忌のひかりを抱き水の束
新米のつぶやき止んで炊き上る
科織り女腹で筬(おさ)打つ霜の村
子どもたち見えず飛島海猫(ごめ)ばかり
棄島の家のビラそのままに草いきれ
◇選外佳作
児の描く峰の残雪生乾き
滝落ちる音に重さのありにけり
国産みの島に生まれて稽古海女
海女釣らんばかりにたぐる命綱
もう喧嘩できない奴の墓洗う
柚子一つ継ぎ足す妻の仕舞風呂
みなメスのあとある老いの日向ぼこ