◎ 新俳句人連盟賞受賞作品と受賞者

第39回新俳句人連盟賞受賞作品

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入選

  「壊滅地帯」 万葉 太郎 

壊滅地帯骨の欠けらの雪が降る

津波避難老いの空咳夜を曳く

被災者が被災者守る泥の照り

瓦礫やヘドロや眠りに胡坐かく余震

被災の尾伸び聴診器に詰まる凝り

屋内退避ひもじい猫が寄ってくる

マスクの子らもぐもぐ避難肩揉み隊

原発廃炉へ被ばくは下請作業員

ランドセル髭の語濡らす紙棺

「安全神話」春寒闇の底知れず

卒業証書明日へ拭き取る津波の泥

人を斬る剣は持たぬ初神楽

菜の花マラソン知覧から来る少年兵

ハンセン監房跡の炎天拳石

師を負えば背の男根が喋る夏

紅葉は卑弥呼のはにかみ渓谷から音

稲刈りて石橋踏みて兵にされ

深爪の痛さ開戦日の寒さ

白泉忌戦死の兄の講義録

雪しまく反核ポスターに足す画鋲 

 

◇入選

 

  「日出生台」  谷川彰啓

 

石蹴って蝌蚪を散らした日の故郷

かげろうや振り返るたび村揺れる

限りある時間が見える花あかり

にんげんを忘れてさくらの中にいる

蝉しぐれだあれもいない村になる

片減りの靴底を灼く爆心地

一本は蝉の啼かない被爆の樹

米を磨ぐ母の背中の広島燃ゆ

黙祷のこぶしの中まで蝉しぐれ

日出生台砲こだまして稲架の列

砲火つゞく牧のすゝきに牛固まり

霧に消ゆ戦車の轍(わだち)真直ぐに

砲火止むすゝきの間に牛の耳

兵ら去り日出生台地に時雨くる

こおろぎと遠い時間の中に住む

秋刀魚焼く人は寂しい距離を持ち

落葉掃く手は晩年につきあたる

それぞれの時間を濡らす霧の村

子ら去りて枯野に残る父の椅子

まだ残る夕日の中の葱を抜く

  

◇佳作一位

 

  「冬を生く」 野田賢太郎

 

師走風片手で掬いポケットに

妻の声残る初湯の満々と

快眠の眼底(まなぞこ)に澄む冬木立

一茶忌や泣く子が跨ぐ水溜まり

雪合戦僕には影の無いいくさ

砂像展足音沈む雪砂丘

傷痕の臍が呼び来る梅雨の冷え

吹雪く夜や過去も未来も消灯す

痰を切る力を残し冬を生く

春の山背負っても良し凛と老ゆ

病み返すつんつん伸びる松の花

掌に余る錠剤一飲み水温む

空蝉や命の匂い地に残し

共に老い共に黙して原爆忌

臥す我や百日紅を観て飽かず

黙々と妻と夕餉の大夕焼け

点滴のしずくは無音夏至明かり

八月の水飲む椅子が一つ増ゆ

鵙の声無人駅より吹き抜ける

妻と踏む落ち葉の声の有るが中

 

◇佳作二位

 

  「八十八夜」 三井淳一

 

白さるすべり鞄に詰める爆心地

中肉中背八・一五の義手義足

美しき弧に黒点のごとく基地

ひばりの忌鉛筆で描く憲法と

生真面目な俺の靴底多喜二の忌

侵略史の冒頭に立つ白木槿

八十八夜人類はまだ幼年期

無邪気な道の向こう原子炉熔ける

赤子に核浴びせ潮騒もとの春

シャボン玉のように赤子に計測器

肩たたく子供ボランティア少し春

朧夜や原発にもぐる派遣たち

知性とは私心無きこと星凍てる

十年間昇給の無し風光る

青き踏む息子と始む塗装工

心臓と脳の引き合う二月かな

汗だくの老後赤い靴に消費税

九月一日フライパンの焦げ擦する

地底のメロディ三十三名へ星月夜

夏の果て父は土星の輪で遊ぶ

 

◇佳作三位

 

  「山家の景」 小林万年青

 

羊水の途中は八十八夜かな

砂針にいつもの速さ鳥帰る

日本語がひとつ桜の木に登り

陽炎の亡母は上手に逃げていく

多喜二忌の汽車の空席北へ北へ

梟や寝返るための骨が鳴る

鳥渡る行く先はみな地図の中

祖の血のまざまざと沸くいぼむしり

地を這うような母を日傘に入れてゆく

水呑んで影の膨らむ羽抜鶏

父いればその父もいる秋の山

母の郷深々行けばとろろ飯

枯すすき白い手紙となってくる

枯蓮のどの一本も骨のいろ

台風の目の中におり神父の傘

枯葦に刺されておりし生家かな

北の冬午前零時が時効です

人間をにんげんにして冬仕度

凍蝶の夜に罅入る音のする

寒林を手のひらほどの馬がゆく

 

◇佳作四位

 

  「蚊柱太し」 中村花木

 

金環蝕と子規の写真の明治かな

豆の花祖母の輪郭ぼんやりと

まんさく咲いて親父小さく臨終す

蚊柱太し八ッ場の衆の石仏堂

うつくしく壊れていたり吾妻渓谷

あいまいに笑う外なし八ッ場の衆

殺処分される種牛草青し

木槿咲く体内時計を正すなり

綿棒の首の折れたる終戦忌

ピカドンが熔かした象の貯金箱

戦争や出口入口無言館

首から上のキリンの影や石蕗の花

秋の蚊の増税論は背後から

十二月八日回覧板を飛ばされた

農事日記焚火にくべて老の葬

天気図の指紋のように寒波来る

ボス猿の半身浴や春どなり

そらに住むひとと遭ってる朝寝かな

亀鳴くや日本銀行地下金庫

ワン切りの非通知電話多喜二の忌

 

◇選外佳作

 

 「虹わたる」 佐野 威

 

職辞して手のひら乾く五月かな

虹わたることもあろうと靴買って

少年の顔して歩く天高し

吊し鮭ところどころに武士の貌

冬隣余生を臍で考える

秋耕の肩にかゝりし日の重み

自己流のくしゃみ響かせ一人なり

 

◇選外佳作

 

 「新米のつぶやき」 鳥羽しま子

 

土偶目の子ら八月の広島は

誰来しと思えば雪の落ちる音

多喜二忌のひかりを抱き水の束

新米のつぶやき止んで炊き上る

科織り女腹で筬(おさ)打つ霜の村

子どもたち見えず飛島海猫(ごめ)ばかり

棄島の家のビラそのままに草いきれ

 

◇選外佳作

 

 「旅路」 小西明彦

 

児の描く峰の残雪生乾き

滝落ちる音に重さのありにけり

国産みの島に生まれて稽古海女

海女釣らんばかりにたぐる命綱

もう喧嘩できない奴の墓洗う

柚子一つ継ぎ足す妻の仕舞風呂

みなメスのあとある老いの日向ぼこ