「拷問・陵辱」学ぶ二月のパイプ椅子
人間うたう国鉄工衣ら肩広し
花束手に非核署名し卒業す
沖縄へ背なに母らの寄せ書きも
春の波透かし向き合うジュゴンと眼
職安の土産にインフルエンザとは
北風ぬける手さげひとつの派遣村
あいりん地区靴底たちの踏む焚火
春の虹半分だけの自死の国
テニアンの手招きを背に通し鴨
乳房拭く手に大初日牛の息
雪原ごと引っぱる機関車「倶知安行」
雪に立つ多喜二遺影の眉力
白鳥帰る翼にしなる天の青
白濁の海光拡げ鰊群来
トラックの午睡二、三台花の下
古利根に寄り添う鴨やりんどう忌
「猿島」ひらけばりんどう色の瞳が笑う
春寒しポケットの中のグー・チョキ・パー
井上ひさしが笑み九条の花の座に
三月十日もんぺをはいて寝てる夢
長き夜やいつしか訛る湯治宿
父の日や舞い戻りたる派遣の子
紫陽花や公約にリトマス試験紙
囀りの聞こえぬ人と歩む日々
花あかり若過ぎる母納棺す
訃の報や暗き銀河を土手で見る
八月に恨あり十歳の少年に
村中の厄を背負ひいし流雛
母の日の夢の中でも母野良着
五月雨や人恋しくて切手買ふ
白菜の巻くを括られ捕虜の列
春みぞれまたも読みだす「蟹工船」
北冨士の「安保」を匿す夏霞
手袋を合掌させて一日暮る
谷中銀座猫の目線の花すみれ
女工哀史別珍足袋の紅の色
手を出せば届くりんごの五能線
大根のラインダンスは軒の下
矢車草百の孤独やハローワーク
寒の水髪に撫でつけ早出の息子
笑みの眼に言葉のいらぬ春マスク
空家消え梅雨にのぼりの分譲地